2021/11/10 17:16

皆さんこんにちは。
布団から出るのも億劫な11月、いかがおすごしでしょうか。

前回の予告通り、今回は『暗夜行路』『小僧の神様』で有名な、

志賀直哉の見た松江について迫ります。



芥川の1年前に松江でひと夏過ごした志賀。
その日々は後に『濠端の住まい』(大正14年)として発表されます。

住まいは偶然にも芥川と同じ松江城の西、内中原町にある長屋でした。

現在その長屋自体は残っていませんが、
芥川を招いた井川によると、亀田橋横の鼕庫(どうこ)の裏にあったらしいので行ってみました。


(内中原町 亀田橋 右側に鼕庫がある)

この鼕(どう)というのは出雲地方で太鼓を指す言葉。
つまり、鼕庫は祭りなどで使う太鼓の保管場所ですね。松江の各町内で見ることができます。

近くに芥川と志賀の石碑がありました。



やはり、この場所で間違いないようです。

芥川は友に会いに来たわけですが、志賀は次の連載の執筆に専念するべくやってきました。
松江を選んだのは「小泉八雲が気に入った街だから」という理由だったようです。


志賀は松江での時間を、人間関係に気疲れする都会生活にから離れ、穏やかな自然に触れて過ごせたと語っています。
そのためか作中には、隣の夫妻以外人間がほとんど登場しません。
亀田橋から川を覗くとちょうど亀と目が合いました。


(おそらく外来種のミシシッピアカミミガメ)

作中に登場する生き物は、鳰鳥(カイツブリ)や、鯉に鮒。昆虫に、それを狙うヤモリとカエルなど。
今は堀の水が汽水になったためか生態系が変わり、住んでいる生き物も変わっているようです。


(県庁東道路沿いにあった看板)

しかし変わらず水鳥の往来があり、鵜が魚を追いかけていました。


(こちらを一瞥するカワウ)

(水草をつつくカモたち)

水草の間をカモが泳ぎ、対岸には城の森の木の影が落ちています。
この様子を志賀は、堀というより古い池のようだと語っていました。確かに。


多くの動物と過ごした志賀ですが、その動物たちの中でも特に鶏と猫が登場します。
偶然にも猫が通りがかったので一枚。


(木の下で休憩していた猫)

『濠端の住まい』には養鶏を殺した野良猫が、長屋の裏の堀に沈められてしまうというショッキングなシーンがあります。

当時の動物観はともかく、長屋の裏はすぐ堀になっていて石段で降りれるようになっていた様子。
作中ではそこで顔を洗ったり、隣の亭主が釣りを楽しんでいたとありました。

残念ながら長屋付近に石段はありませんでしたが、他の場所に残っていた石段はこちら。


(千鳥橋横の階段)

(筋違橋横の階段)

この石段は江戸時代、堀川を利用した船での運搬の際に荷の積み下ろしに使用されていた【灘】と呼ばれる石段です。
おそらく志賀が毎朝顔を洗いに降りていた石段はもう少し小さなものかと思われます。

志賀が作中で描いた松江の“水”は堀だけではありませんでした。
それは中心市街から少し離れた場所にあります。

志賀は豪雨の日に突如思い立って、歩いて湯町まで行くことに。
湯町は宍道湖の南側にある町で、奥へ行くと玉造温泉という温泉街が当時と変わらずあります。
(時間の都合で志賀はこの日温泉には行かなかったようです)


(玉造温泉入口のモニュメント)

その途中志賀が見たのが貯水池。
雨の中浮かぶ睡蓮の白い花が美しかったと評しています。


(湯町の貯水池 近づいて撮影できるのはここくらいだった)

今は睡蓮の面影を見ることはかないませんでしたが、貯水池は今でも数カ所あるようです。
志賀は汽車で戻り、殿町で食事をして帰宅しました。


(松江城から見た殿町 今では観光の中心地ともいえる)

この殿町での描写に【物産陳列場】があったのでそれも撮影したかったが、現存していない。
現在の場所で言うと、松平直政公像の近くにある【島根県庁第三分庁舎】にあたる。


夜はこの日のように外食したり、友人と鍋をつついたりした志賀ですが、
毎日の寝起きはパンとバターと紅茶。そして少しの野菜で、なるべく簡素に迎えていたと語っています。

なのでこの撮影の日の締めくくりとして、駆け込んだ喫茶店でトーストと紅茶を頂きました。
こんなに分厚いパンではなかったと思いますがね…。


(たっぷりバターのかかったトーストとセイロンティー 水鳥も浮かんでいる)

作中には人との交流が描かれず、執筆のために来松していたので観光という雰囲気ではありませんが、
実際は友人の作家、里見弴(さとみとん)と訪れて多くの友人と過ごしたようです。

その様子は里見弴の『或る年の初夏に』(大正6年)で見ることができます。
また、友人に宛てた手紙では地元の人々の親切さを記していました。
(ちなみに執筆はというと、全く進まなかったとか)

さて、芥川も志賀も友人と松江をじっくり過ごしたわけですが、

次回は息子と旅行に来た島崎藤村の見た松江~出雲をたどりたいと思います。



では、また。